いま使われている多くの AI アプリは、実質的には誰かのクラウドへつながる薄いクライアントです。プロンプトは相手のサーバーへ送られ、ファイルもモデルに読ませるためアップロードされ、会話履歴は相手のデータベースに残ります。API キーがあるとしても、それはたいていアプリ側の鍵で、利用料に上乗せされて請求されます。この形は便利ですが、ひとつの前提を静かに置いています。あなたのデータ、仕事、認証情報を相手が預かるという前提です。
ローカルファースト AI は、この初期値を反転させます。この記事では、ローカルファーストとは何か、それを AI agent に適用すると何が変わるのか、そして本当にローカルファーストなツールかどうかをどう見分けるのかを整理します。Orkas はこの考え方で作られているので、具体例として Orkas を使います。
範囲の注記。以下の自分の鍵に関する説明は Orkas の BYO 経路です。公式マネージドモデルは Orkas のマネージドモデルサービスを利用します。ローカルファーストはワークスペースの既定と制御を表し、すべてのモデル呼び出しが Orkas を迂回するという意味ではありません。
ローカルファーストとは何か
この言葉は AI 固有ではなく、ソフトウェア設計から来ています。要点を絞ると、ローカルファーストなアプリには三つの性質があります。
- データは既定で自分のデバイスにある。 文書、履歴、設定の正本は、リモート DB の行ではなく自分のディスク上のファイルです。
- アプリは自分のマシンから動く。 中核機能はローカルで動き、毎回サーバー往復しないと成立する構造ではありません。
- ネットワークは選択肢であって土台ではない。 同期、共有、共同編集は有効化できる機能であり、オフにしてもアプリは使えます。
クラウドファーストな SaaS では、サーバーが真実の源で、手元の端末はそこを見る窓にすぎません。ローカルファーストは証明責任を逆にします。データはあなたのものです。どこかへコピーを送ると明示的に決めるまでは、あなたの手元にあります。
AI agent になると何が変わるか
この考え方を AI ツールに持ち込むと、プライバシー上とても重要な二つの約束が生まれます。
Bring your own key(BYO-key)。 BYO 経路では、OpenAI、Anthropic、Google などの自分の API キーや OAuth 認証を使い、プロバイダー、モデル、制限、請求を自分で管理します。Orkas には公式マネージドモデルという別の選択肢もあります。
BYO のモデル呼び出しは直通です。 agent が自分のプロバイダーを使うとき、リクエストはあなたのマシンからそのプロバイダーへ直接送られ、Orkas を通りません。公式マネージドモデルは Orkas のマネージドモデルサービスを利用します。
ここは正確に言う必要があります。ローカルファーストは「巨大モデルそのものが必ず手元で動く」という意味ではありません。モデルはクラウド API でもかまいません。ローカルなのは、モデルの周囲にあるものです。データ、鍵、agent 設定、何をいつ送るかを決める制御面。それが誰の手元にあるか、という話です。
何がどこに残るのか
Orkas のようなローカルファースト agent では、既定で次のものが自分のマシンにあります。
- API キーと OAuth トークン。保存時に暗号化され、同期対象から外されます。
- チャット履歴、計画、生成されたファイル。
- agent 設定、skills、ナレッジベース。
- 個人メモリ。agent が学んだあなたの好みや事実です。
特に鍵の扱いは重要です。よく作られたローカルファーストアプリでは、鍵のライフサイクルは短く閉じています。
1. 追加する → API キーを貼る、または OAuth でログインする
2. 暗号化して保存 → ディスクに触れる前に AES-256-GCM で封じる
3. ローカルに保存 → マシン専用の設定ファイルへ書き、同期から外す
4. 直接使う → メモリ上で復号し、あなたのマシンからプロバイダーへ直通するBYO 経路では、鍵は Orkas のサーバーへ渡りません。保存時にも、通信時にも、テレメトリにも載りません。
それでも外へ出るもの
ローカルファーストは「何も外へ出ない」という意味ではありません。それでは役に立つ AI ツールになりません。正しい説明は、外へ出るのはあなたが指示したものだけで、行き先もあなたが選ぶ、ということです。
- 自分のプロバイダーへのモデル呼び出し。 プロンプトと応答は、あなたのコンピューターとあなたが選んだプロバイダーの間を直接行き来します。Orkas には行きません。
- 明示的に許可したコネクター呼び出し。 GitHub、Notion、Google などへ接続した場合、その通信はあなたのマシンから相手サービスへ向かいます。
- オンにした場合のクラウド同期。 複数デバイス同期は任意です。オンにしたデータだけが Orkas サーバーへ保存されます。
- 限定的な利用状況分析。 どの機能が使われたかという集計イベントだけで、プロンプト、ファイル本文、メッセージ、認証情報は含みません。
BYO 経路では、鍵はローカルに残り、モデル通信は選んだプロバイダーへ直通します。公式マネージドモデルと、選択したその他のクラウド機能は Orkas のサービスを利用します。
なぜ重要なのか
データ主権。 会話、agent が読んだり書いたりするファイル、構築したナレッジベースは、あなたのディスク上にあります。バックアップ、確認、削除を誰かに頼む必要はありません。
監査可能性。 自分のプロバイダーを使う場合は、オープンソースのクライアントとネットワークを見て直通経路を確認できます。マネージド機能には Orkas サービスを使う別の公開経路があります。
モデルの選択。 公式マネージドモデルか、自分で接続するプロバイダーとそのモデルを必要に応じて選べます。
コストの透明性。 マネージド機能は Orkas credits を消費し、自分の鍵による利用はそのプロバイダーから直接請求されます。
耐障害性。 中核が手元で動き、データも手元にあるため、外部サービスの障害や終了告知で仕事そのものが失われる構造になりにくいのです。
ローカルファーストとローカル LLM の違い
ローカルファースト AI、オンデバイス AI、ローカル LLM は近い言葉ですが同じではありません。
- ローカル LLM は、Ollama などでモデル重み自体を自分のハードウェア上で動かすことです。プロンプトも応答も外へ出ませんが、利用できるモデルは手元の性能に左右されます。
- ローカルファースト AI は、ワークスペースデータ、鍵、制御面が既定でどこにあるかを指します。モデル通信は選択した経路に従い、公式マネージドモデルは Orkas サービスを、自分のプロバイダーは直通経路を使います。
両者は競合ではなく組み合わせられます。ローカルモデルを選べるローカルファーストツールなら最も強いプライバシー姿勢を取れますし、クラウド API を使っても、データと鍵は自分の管理下に残ります。
本当にローカルファーストかを見分ける
- ワークスペースデータは既定でどこにあるか。 ローカルファーストではデバイスが既定の正本です。
- どのネットワーク経路があるか。 信頼できる製品は BYO 直通、マネージドモデル、同期、コネクター、分析を区別します。
- 同期は任意か。 有効化するまでデータはローカルに残ります。
- 検証できるか。 オープンソースのクライアントならコードと通信を確認できます。
- どのモデル経路を選ぶか。 BYO はプロバイダー直通と直接請求、マネージドモデルは利便性と Orkas credits という別の経路です。
まとめ
ローカルファースト AI は初期値に対する立場です。ワークスペースデータと制御は手元から始まり、任意のネットワーク機能には明示された経路があります。Orkas では、公式マネージドモデルは Orkas サービスを、自分のプロバイダーは直通経路を使います。
鍵のライフサイクル、暗号化、何が残り何が外へ出るのかを詳しく知りたい場合は、Security & Trust ページを読んでください。agent の実行基盤については、単体 agent をどう信頼できる実行環境にしているか、そして主 agent がサブ agent チームをどう調整するかも参考になります。